外から見ると、テルヴァンニのキノコの塔は威圧感がある。
機能性と両立した作られた美を体現することに重きを置いているのが帝国やアルドメリの建築様式だとすれば、これは自然を美とするウッドエルフ、ボズマー達の価値観に近い建築物に見えるだろう。
しかしそれは外見だけ。実態を知れば知るほど、これらには大きな違いがあることがわかる。
このキノコの住居の何が最も優れているのか。それは、建築に際してのコストパフォーマンスだ。
キノコの塔は、最大規模のものでもたった10日で建築できてしまう。それでいて耐久性は一級品だった。
それも、勝手に出来上がる。人手が要らないのだ。魔術によってキノコの株それ自体が住居として使える部屋を自然と作り出すように設計されているから、家の主はただ育成に必要な資源、キノコの栄養素を配置して待っていればいい。
……ただ、そこまでならボズマーの魔法でできる木の家も似たようなものだ。根本的に違うのは、キノコの場合は場所を選ばず、制約なしに建てられてしまうこと。このためにその家の中で出来ることが大きく変わってくる。
このキノコは魔術的な設備を導入するのに親和性が高い。上下水道に入浴設備、キッチン、空調、ガーディアンを配置する防犯設備、ガーデニングの可能な庭に至るまで、なんでも組み込める。
大木のうろのような家に住まうボズマー達のほとんどはグリーンパクトという森との契約に縛られるため、容易に安全な住居を増やせず、家主自らその家を傷つけることも許されない。作る地域も限定されている。しかしダンマーにはその制限がないので改築も容易である。デイドラ由来の魔術でもドゥエマーの機械でも好きに導入できていた。
つまり、住める家になるまでに必要な資源の物量や人的コストは圧倒的に低いのに、どこでも建てられて機能面でも充実している、それこそがこのキノコの住居の利点だった。
これがあるから、噴火で被災してもテルヴァンニ家の者たちはすぐに体制を立て直すことができたのだ。
しかし、裏を返せばそれは……管理がずさんな土地ならば所有者に無許可で勝手に建ててしまっても通常通り完成し、簡単に取り壊せないということだ。
菌類であるから成長速度は本当に早い。不意打ちで植え付けられてしまったら、騒いでいる内に出来上がってしまう。強引に家を建ててしまいたい者にとってこれほど便利な代物はない。これが広く出回ったりしようものなら、そこら中がキノコだらけで大変なことになる。
だからこそテルヴァンニ家では高位のウィザードが許可せねば建てられないように、キノコの株は厳しく管理されていた。仮に盗まれたとしても悪用されないよう、正しい手順を踏まねば発育しないように封印が施されているのだ。
……このイリナルタ湖のような事態が起きないように。
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機能性と両立した作られた美を体現することに重きを置いているのが帝国やアルドメリの建築様式だとすれば、これは自然を美とするウッドエルフ、ボズマー達の価値観に近い建築物に見えるだろう。
しかしそれは外見だけ。実態を知れば知るほど、これらには大きな違いがあることがわかる。
このキノコの住居の何が最も優れているのか。それは、建築に際してのコストパフォーマンスだ。
キノコの塔は、最大規模のものでもたった10日で建築できてしまう。それでいて耐久性は一級品だった。
それも、勝手に出来上がる。人手が要らないのだ。魔術によってキノコの株それ自体が住居として使える部屋を自然と作り出すように設計されているから、家の主はただ育成に必要な資源、キノコの栄養素を配置して待っていればいい。
……ただ、そこまでならボズマーの魔法でできる木の家も似たようなものだ。根本的に違うのは、キノコの場合は場所を選ばず、制約なしに建てられてしまうこと。このためにその家の中で出来ることが大きく変わってくる。
このキノコは魔術的な設備を導入するのに親和性が高い。上下水道に入浴設備、キッチン、空調、ガーディアンを配置する防犯設備、ガーデニングの可能な庭に至るまで、なんでも組み込める。
大木のうろのような家に住まうボズマー達のほとんどはグリーンパクトという森との契約に縛られるため、容易に安全な住居を増やせず、家主自らその家を傷つけることも許されない。作る地域も限定されている。しかしダンマーにはその制限がないので改築も容易である。デイドラ由来の魔術でもドゥエマーの機械でも好きに導入できていた。
つまり、住める家になるまでに必要な資源の物量や人的コストは圧倒的に低いのに、どこでも建てられて機能面でも充実している、それこそがこのキノコの住居の利点だった。
これがあるから、噴火で被災してもテルヴァンニ家の者たちはすぐに体制を立て直すことができたのだ。
しかし、裏を返せばそれは……管理がずさんな土地ならば所有者に無許可で勝手に建ててしまっても通常通り完成し、簡単に取り壊せないということだ。
菌類であるから成長速度は本当に早い。不意打ちで植え付けられてしまったら、騒いでいる内に出来上がってしまう。強引に家を建ててしまいたい者にとってこれほど便利な代物はない。これが広く出回ったりしようものなら、そこら中がキノコだらけで大変なことになる。
だからこそテルヴァンニ家では高位のウィザードが許可せねば建てられないように、キノコの株は厳しく管理されていた。仮に盗まれたとしても悪用されないよう、正しい手順を踏まねば発育しないように封印が施されているのだ。
……このイリナルタ湖のような事態が起きないように。
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