ブリーズホーム
それはホワイトランの門からすぐ近くにある、割と小さい家だった。
家の前で、鎧姿の女性が椅子に座っている。


3-5-1


ウェズ「やほー、リディア

リディア「おや、ウェザレフさん? モーサルの任務だと聞いていましたが」

ウェズ「まぁちょっと訳があってねー……お邪魔していーかな? 馬車がひどくてさー、乗ってるだけでつかれた」

リディア「どうぞごゆっくり。ロゼさんもどうぞ……貴女がフィアさんですか。よろしくお願いします」

フィア「こ、こちらこそよろしくお願いします」

丁寧な物腰と言葉遣いだが、その身のこなし、全く隙がない。
かなりの強者だろう。
そこに警邏けいら中の衛兵が通りかかった。
心なしかリディアの前を通り過ぎるとき、びくびくしているような気もする。





彼女のことは気になるが……
それよりも『従士になって持てるようになった家』というものに興味津々のフィアは、リディアに一礼し中に入った。

中ではもうすでに、ウェズがソファに腰掛けてくつろいでいる。
彼女の前の暖炉には火がついていた。ウェズが早速つけたのだろうか。
ロゼはその火で鶏肉を焼き始めた。

台所に立って家の中を見渡してみる。
広くはないが、住み心地のよさそうな家だった。

ウェズ「やっぱ揺れない座席はいいわー」

懐からポテチを取り出して、早速パリパリやっているウェズに聞いてみた。

フィア「ねえ、あのリディアってどんな人?」

ウェズ「んー、ホワイトランでセリンが従士になったときに、首長につけてもらったノルドの私兵だよ。だから、元々ホワイトランの人。その前は……男ばっかりの衛兵の中で女だてらに無双してた、とか聞くなあ。今はゼディスの連絡員としても動いてくれてる」

フィア「やっぱり強いんだ……」

そして、衛兵に恐れられている理由もなんとなく分かった。

ウェズ「私兵って楽そーな仕事なんだけどねー。どっかでさ、従士の私兵は家でパン食べてればいい仕事だー、って読んだことあるし。ただセリンは『ヒマなら店番でもしててくれ』って言って家の前にお店作っちゃったから、あんなふうに外で店番してる」

フィア「お店って言うけど、品物はどこから仕入れてるの?」

ウェズ「んー、だいたいゼディスの活動で得た余り物のガラクタだよ。それに、リディアがああだから、お客あんまこない。買い手はだいたい観光客とかで、街の人じゃない感じ」

本人の過去の名声のせいで恐れられているのかもしれない。
そう考えてフィアはなんとなく同情した。

ロゼ「ごはんできたよ、たべようフィアちゃん(*´ω`*)」

フィア「はーい。ウェズちゃんもポテチばっかじゃなくてこっちも食べたら?」

ウェズ「んー、そうね、ポテチ温存しないと」

よくわからないが、ウェズはポテチを切らすとまずいことになるようだ。
ロゼの料理はだいぶ男前な料理法のものばかりだが、3人で美味しく平らげた。





一方、その頃。
ブリーズホームの外、少し離れた茂みに怪しい人影が身を潜めていた。


3-5-2


「チッ……リディアが入り口張ってる限り、中の様子は探れないわね……」

誰にも聞こえないその呟き。
まだ誰も、彼女の存在には気づいていなかった。