ぽたり。
床と呼ぶには荒削りすぎる洞窟の石の上に、雫が落ちる。
よろよろと通り過ぎる人影から、またぽたり。

「ふんぬうう、くおおおお」

少年の唸るような声。
彼は荷物を背負って運んでいた。とても重いものを。


12-1-18


極寒のスカイリムの外気よりはマシだが、この洞窟だって別に暖房設備がついているわけではない。
冷え切った空気でも汗が止まらないのは、こういう重労働ができる人員が彼しかいないせいだ。

「オレは、肉体労働向きじゃ、ないってのにっ… ぜーはー」

そんなにひ弱というほどでもない彼だが、着ている服は魔術師のローブ。
それも、趣味の悪いドクロの意匠がついている。
誰がこれを流行らせたのかは皆目見当がつかないが、スカイリムのごく一部ではとてもポピュラーなローブだった。
…死霊術師達の間では。

つまるところ、彼もまた死霊術師なのだった。





「ありがとうアスター、やっぱ男の子は頼りになるわー」


12-1-19


声をかけてくるのは、今回の仕事に誘ってきた女死霊術師。

アスター「は、ハハ、お安い御用だ」

格好つけてはみたものの、汗だくだし息も切れている。
虚勢を張ってるのは見透かされているだろう。

「ごめんごめん、あとちょっとだから。それを階段の上まで持ってきてくれれば、後は任せていいからさ」

アスター「お… おう」

笑顔を残して螺旋階段を駆け上がっていく彼女。
こちらに笑いかけたというよりも、これからする儀式が楽しみなのだろう。
その階段を見てげんなりする。

アスター(何かいいように使われた感じするな… 儀式するメンツが女だけだって聞いたから協力しに来たってのに、オレと年近いあいつが最年少、後は…って集団だったし。やっぱ下心で来るもんじゃねーな)

好意的に迎えられているのは確かだが、どっちかというと息子みたいに可愛がられているというのが正確だ。それもそのはず、年齢制限的にはまだ酒も飲めないアスターにとっては年齢差が大きすぎる女性が大半だった。
後悔先に立たずと言うし、考えても仕方のないことだ。それにそれだけ、死霊術師として経験豊富なメンツが揃っているということでもある。
気力を振り絞って、荷物を背負いなおす。

アスター「さて、行きますかね。こいつが無いと始まらないだろうしな」

大きな荷物。
重いはずだ。中身はまだ死んで間もない女性の全身だった。
かなり入手困難な聖職者で、しかも儀式のために特殊な処理をしてある死体だ。こいつ自身を操って歩かせてしまうわけにはいかない。
ここはそれなりにいわくつきの洞窟で、死霊術師の絡む話で有名だ。通りすがる旅人や近隣の村の住人も何か怪しい動きがあれば敏感に反応するだろう。非力な女性だけでちんたら死体を運んでいたら目立つに決まっている。
他の死者に運ばせることもできるが、通常は触覚が死んでいるから力の加減が効かない。壊れやすいモノを運ぶのには不向きだ。特に、今回はガラス器具でも扱うような神経が要る。だからアスターがひいひい言いながら運ぶしかなかった。警戒用の死者が見守る中、たった一人で。

アスター(あのオッサンを呼べばよかったか… もう終わるから、今更だけど。ああ、でもこの仕事はやめとけって言ってたんだった。ダメだなやっぱ… ああ、汗拭きたい、死臭もするし… 風呂入りてぇ)

時々壁に手を突いてふらふらする体を支えながら、階段を登る。
酸欠だと思考もふらふらしてくるようだ。
ようやく、一番上のフロアが見えてきていた。





数日前。

「ウルフスカル洞窟? …やめておけ。私は手伝わん」


12-1-1


アスターがファルクリースの森にある隠れ家に帰ってきて、知り合いの仲間から仕事として依頼された場所を口に出した途端、彼は内容も聞かずにバッサリ切り捨てた。
こちらに目線も向けずに、どこからか入手してきた黒馬新聞を睨んでいる。

アスター「即答だなオッサン… もう少し聞いてくれてもいいだろ」

「あのな。狼の女王の名前くらい知っているだろう、お前は。情報の重要性というやつを知っておけ」

アスター「その道の専門家に何言ってるんだ。知ってるよ。一週間前の新聞読んでる奴にそんなこと言われてもな」

日付を見るまでもなく、捨てられていたのを拾ってきたのだろう。誰かの足跡がついている。汚い。

「速報性がなくなっても資料性は無くならん。そういう意味では一週間など誤差の範疇だろう。特に寿命から開放されている者にとってはな。第一、もったいないと思わんか」

光る頭を新聞から上げて、ようやく目を向けた。
ハゲ頭なのではない。皮膚がないのに髪は生えない。
よく考えると目も向けてない。というより眼球がない。


12-1-2


要するに、このケチ臭い彼はスケルトンである。
会話しているくらいなので、ただの骨ではない。

骨の斥候「今のお前は何か失礼なことを考えている顔をしている」

アスター「ゼンゼンソンナコトナイデス」

骨の斥候「ハァ… 全く、これで私の主だと言うのだから手に負えん」

溜息をつかれてしまった。骨に。

アスター「あー… 分かってるっての。ポテマは相当な大物だって」

狼の女王、ポテマ。
大昔にタムリエルの皇帝の座をかけて争い、手段を選ばなかった死霊術師の大魔女。
戦争に破れ、付き従う生きた家臣が居なくなっても、アンデッドの大群を従えた彼女はソリチュードで籠城し続け、城はゾンビやスケルトンで溢れかえっていたと言われている。タムリエルの歴史に残る悪女のトップ3にランクインしているだろう。
ソリチュードという名に黒歴史を刻んでしまった女だから、今でも現地ではポテマの名を口に出すだけで嫌な顔をする人がいたりする。
ポテマが儀式を行っていたとされる場所だって西の山にある。
それが、今回の仕事の場所… ウルフスカル洞窟だった。

アスター「そりゃさ、オレ一人でどうにかしろって言われたら無理だよ。だけど仲間が居るわけだし」

骨の斥候「全く分かっていないな」

彼は新聞を折りたたんで脇に置いた。

骨の斥候「お前が魔術師として力不足だと言うつもりはない。私の力をここまで引き出して使役出来ている時点で大したものだ」

アスター「使役出来ている…ねえ…」

そう言われても実感がないのは無理もないことだろう。
確かに、アスターが魔力を供給しているからこそ彼が動いているのは事実だ。
しかし、コントロール出来ているのかと言われるとものすごく怪しい。どう見ても彼は彼自身の判断で行動している。自立している… いや、してしまっている、と言っていい。

アスター「あんたオレの指示聞いてくれないじゃん」

デイドラを召喚して束縛に失敗したらこんな感じだろう。だいたい召喚者が殺されて終わりだ。


12-1-3


骨の斥候「お前がダメじゃないのは魔術師として、の話だ。指揮官としては問題があるに決まっている。自分より仲間の命を優先するような奴が、手駒を使い捨てにして戦術を組み立てるのに適した技術を上手く活かせるわけがなかろう。性格的にお前は甘過ぎるのだ」

アスター「…うぐ」

こいつの持論では、死霊術師は非情な指揮官でなくてはならない、とのこと。
骨ならバラされて戦闘不能になっても組み立て直せばまた行動できるが、死霊術師本体はそうはいかない。だから激戦になって手が足りないからと言っても、ほいほい前に出ていってはダメなのだ。それは判っている。
だが、味方に損害が出た時、冷静に命令だけ出して待っていることが出来るなら、こんな風に説教されたりしない。

アスターは割と身だしなみに気を使っているから、ローブを着替えれば街に出入りしても怪しまれない。衛兵に見咎められたりもしない。
しかし街の人と付き合いがあるせいか、あまり死霊術師の価値観に染まっていない。助け合えるなら助け合いたいというのが本音だ。
まぁ別に死者を下僕にしたくて死霊術師になったわけではないので、らしくないのは最初からなのだが。

骨の斥候「まあ、だからこそ、私はお前に力を貸してやりたいと思っているのだから厄介ではあるな。 …ともかく、経験がお前には必要だろう。戦場で適切な判断を行って被害を減らすには経験が必要なのだ。何より訓練をしろ。そして私の判断を見て少しは学べ。あとな、死霊術以外も身に付けろ。自分の身くらい守れるほうが戦術の幅が広がるだろう?」

つまり、アスターのそういうところがこの骨のオッサンに気に入られているから、力を貸してくれているに過ぎなかった。
というか、もう露骨に保護者ヅラしている。骨だけに。

でも実際のところ戦場での彼の判断は的確で、アスターが指示を出す別のスケルトンとは比較にならないくらいの成果をあげている。
彼の経験や技量を活かさないのは宝の持ち腐れだろう。

アスター「…死霊術師向いてないのかなぁ… 一応虫の教団出身なんですがね…」

虫の教団。
こちらもポテマと並ぶかそれ以上に悪名高い死霊術師であるマニマルコが創立した実力者集団で、アスターは将来を見込まれていた。
教団はあまりスカイリムには縁がなかったのだが、大戦の影響でデイドラのアーティファクトの数々がスカイリムに流れてきているという情報があったため、調査の必要があるということで支部が作られたのだ。

しかし、アスターは少し前にそこから出ていかざるを得なくなった。明日からキミ、来なくていいよ、というやつだ。

骨の斥候「虫の教団なぞどうでもよい。あのマ◯オ・ランとか言う支部長よりよほど見どころがあるぞ、お前は」

アスター「マルコランな。あのクソ親父の顔を思い出すと今でもムカついてくる。でも実力は高かったんじゃないのか。オレには一人であんな数の死霊はコントロール出来ないし」

支部長のマルコランは権力を乱用して色々なものを私物化していた。部下に無茶振りは日常茶飯事、セクハラ・パワハラやり放題。その上に自身は私的な研究ばかりして全く教団に貢献しておらず、部下の功績を自分の手柄として報告する始末。悪評が本部に届かないように勝手に書簡を検閲していたという噂まであるくらいだ。
だから上司としては擁護しようがない最低の人物だったのだが、今のアスターが死霊術で勝てるとは思えない相手だ。不愉快なことに。

骨の斥候「奴自身の実力ではない。隠し持っていたメリディアのアーティファクトのおかげだろう」

アスター「…調べたのかよ」

骨の斥候「マリ◯の行動パターンからしょっちゅう行っていた先は割り出してあった。キルクリースの遺跡。確認したのは遠くからだが間違いない。あそこで教団外の死霊術師と何かやり取りをしていたな。全く、あんなおぞましいデイドラのお膝元によく行けるものだ」


12-1-21


アスター「伏せ字をずらすな。あと回想の画像おかしくない? なんでリーキ持ってんの…」

コイツと会話しているとツッコミ所が多くてだいたい手一杯になる。

アスター「…まあ、メリディアなんてオレらには天敵だしな。そこに行って力を取ってくるなんてよっぽどだろうし、オレが解雇されたのはクソ親父の実力とはまた別の話だろ」

骨の斥候「そうか? だがお前が邪魔になった理由なら判るぞ。あの男、お前を追い出す前に陰でぶつくさ言っていたのだ。『イケメンに育ちやがって… 有罪ギルティ』とか何とか。お前が色気づいてきたからだな。つまりタダの妬みだ」

アスター「ちょ、本当かよ!? そんな理由でクビにされたとか初めて聞いた」

骨の斥候「創立者と同じで女も独占したかったんだろう。器の小さい男によくあるパターンだ、気にするな。どうせMARI◯RUNに学ぶことなどお前にはもうないだろう」

アスター「あいつが教える気がある範囲ならな。あといくらなんでもガバガバすぎる」

骨の斥候なんてこったいマンマミーア

アスターがジト目で睨むと、彼は顔をそむけて頭蓋骨の頬の辺りをぽりぽりかいた。

骨の斥候「…話を戻すが。私のような武人を使役するのと、ポテマヨを使役するのとでは全然別物だというのは分かるか」

アスター「ポ・テ・マ。そりゃまあ。マジカのコストが余計にかかる」

死霊術で死体を操ることがひとつの分野として成立しているのは、生前の対象の力を呼び覚まして動かせるからこそだ。
ただ単に生命ではない物質を動かすだけなら、変性術の念動力と変わらない。それは全くもって非効率的なマジカの量を要求される。


12-1-22


生前、体の箇所はどう動いていたか。歩く、走る、座る。剣を持つ、盾を持つ、弓を持つ。複雑な動作をこなすのに、身体の器官はどう働くのか。意思が身体の各所にどうやって伝達されていたのか。
それを理解した上で、魂の回路を繋げて道を作る。必要ならば、筋肉の動作をマジカで肩代わりする。そうやって生前と同様に動けるように、擬似的に人間を生き返らせるのだ。だから、少ないコストで動かせる。一人で軍隊を組織するようなことが可能になる。
医者の学ぶような人体に関する高度な知識を、使いやすく簡略化され、洗練されてきた技術。
それこそが、死霊術だ。

とはいえ、死んで意思の主体たる魂が抜けてどこかに行ってしまうことはよくあるし、それを他人の魂や自身のマジカで代用する手段も死霊術には豊富にある。死者の霊魂自体を強引に支配してしまうことも可能だ。
大半の死霊術師にとって、死者を好きに操るための自分勝手な技術となってしまっているのは事実なのだ。
何人もの死体から異形の怪物を作ってしまう奴だっている。死体を得るためなら何の躊躇ためらいもなく対象を殺す奴もいる。身内でも信頼できないのが死霊術師だ。公的な魔術機関で堂々と研究できないのも仕方がない。
死者を苦しめる以外の使い方だって、あるというのに。


12-1-4


この骨の斥候とまるで人間相手のように会話できているのも、人体の耳と喉にあたる機能をマジカで代用しているからだ。もっとも、彼に高度な知能が残っているのではと疑うまでは、余計なマジカをつぎ込んでそんなことしようとは思わなかった。
死霊術で蘇らせた死者は通常、身体と後から入れた魂で記憶が混じるから思考は支離滅裂。喋らせても恨み言ばかりだったりして徒労になりがちだ。
スケルトンは脳がないから混じりにくいとはいえ、記憶や思考がここまで明瞭なのは珍しい。本人の説明では元の魂がそのまま骨に宿っているということだから、そのせいかもしれない。

…まぁそれはともかく、死体を動かすだけであればたとえ死霊術師でなくても杖一本で出来るようになっているのだ。
ただし、相手が魔術師だと少々複雑になる。

アスター「魔術師の使役は、物理的エネルギーの補填だけだと役に立たないしな。そいつが使うマジカも供給してやらなきゃいけない。死体にマジカが蓄えられていればいいけど、使い切りだからなあ」

骨の斥候「私が言っているのはそういうことではない。相手は、同じ死霊術師だろうが。しかもお前より格上のな。死体の動かし方に長けている奴に力を注ぎ込んで、好きに動かせるとでも思ってるのか?」

彼は死霊術の専門家ではないはずなのだが、鋭いことを言うので馬鹿にできない。

骨の斥候「奴は死ぬ前に長い籠城戦を続けていたと聞く。負けの見えている戦だ。保険として死後自身を好きに動かすための方法を用意するくらいは考えるだろう。下手に手を出そうものなら奴自身の復活のための養分にされるぞ」

アスター「…それは、もう判ってる。だからそんなことにならないように、策を練ってあるんだよ。さすがにそのまんま呼びだしたりしないって」

歴史には載っていないことだが、彼女らがウルフスカル洞窟を調査した結果、ここには確実にポテマ自身の魂が封じられていると思われる証拠がいくつか見つかったのだ。
最も有力な証拠と思われる記録にはこうある。


12-1-20


当時、死臭漂うソリチュードを攻め落とし魔女の亡骸を発見した帝国だが、彼女自身が息絶えた瞬間を見たものが居ないため、これは罠ではないかと疑ったようだ。彼女の復活を恐れた当時の皇帝はその肉体に魂が戻っては一大事であると判断し、厳重に封印した。
実際に戦争が終わって一ヶ月後、ポテマはその魂だけで肉体を取り戻すべく帰還してきたと思われる。だが、肉体は封印されていただけでなく、魂を追跡する魔術の罠が仕組まれていた。帝国が本当に封印しておきたかったのはポテマの魂の方だったからだ。
肉体を取り戻せずに魂だけでウルフスカル洞窟に帰還したポテマに、帝国の精鋭特殊部隊は急襲をかけた。彼らの活躍で彼女の魂は完全に封印され、やっと平和が取り戻された、ということらしい。


今回の計画は、ポテマの魂を呼び覚まして死体に封じ込めることだ。
当然ただの死体ではなく、余計な思念を丁寧に取り去った上でその肉体自身を魂石のような魂の檻に加工してある。加えて、外部からの命令を強制できるように、ハグレイヴン達との取引で手に入れたブライア・ハートを組み込んだ。この身体に魂縛で引きずりこめば、どんな魂だろうと拒絶はできない。

皇帝に近いところまで行っていた狼の女王ポテマなら、帝国が封印している禁呪レベルの知識を持っている可能性がある。それを引き出して自由に扱えるなら、死霊術師の勢力範囲が書き換わるだろう。
少なくとも、マルコランを出し抜くくらいは余裕だ。もっとも、教団から追い出されて以来連絡は断っているから、今奴らが何をしているのかは知らない。

骨の斥候「その策とやらが上手くいくといいが。危険になったらその仲間を置いて逃げることも視野に入れておけ。生きてさえいれば次の手が打てる」

生きていない奴の言葉とは思えない。

アスター「俺は仲間は見捨てないんだよ! …それに、女ばっかりだって話だし、見捨てられるかって言うと…」

アスターがぼそりと言うと…

骨の斥候「ッハァァァァ…」

すっごくわざとらしくクソでっかい溜息をついてくれた。


12-1-5


骨の斥候「まーた女か。お前な、いっつもいっつも言ってるだろうが。死霊術師の女にロクな奴なんぞいないぞ? お前に好意を向けてくる女は、お前が死んだら脳みそ引っこ抜いて全身腐るまでベッドに鎖で繋ぐつもりだぞ? そういう愛され方でいいのか」

アスター「いいわけねーだろ、オレの好みはノーマルだ」

骨の斥候「どこがノーマルだ、毎日何回も水浴びしてる潔癖症のクセに死霊術師なんかやってる変人は他に知らん」

アスター「死臭にまみれて何とも思わない方がおかしいんだよ! 鼻が麻痺してんじゃねーのか他の奴らは。洗ったスケルトンだけ使うなら臭わないで済むんだからそれでいいだろ!」

骨の斥候「お前に拾われる前に私の骨を洗った奴は100年以上昔のモーンホールドの博物館員で、死霊術師じゃない。最初はお前も私を剥製みたいに飾るのかと思っていたぞ」

実際、他の死霊術師が使役しているスケルトンと、アスターが使役しているスケルトンの区別は見てすぐ判る。汚れがついてないからだ。
骨に異様な愛情を注いでいると誤解されることもある。
…まあ、死霊術師の中で多少特殊なのは自覚しているが。

骨の斥候「ともかく、やめとけって言ってるんだ。お前の方が女を生かしておきたいと思っていても、相手の方は死体になってもまあいいや操っとけば、って発想なんだぞ? 魔法に巻き込んで殺しちゃったテヘヘ失敗失敗ー、メンゴメンゴーって言われても身体の腐敗は止まらんからな? 味方がそんな奴ばっかりだったら生きた心地がせんぞ、私なら」

アスター「そのイメージ絶対偏ってるからな? それとあんたは生きた心地しなくても当たり前だ」

骨だし。死んでるし。

骨の斥候「全く、なんで人を見る目がない奴ばかりなんだろうな、私の友には…」

なんだか遠い目つきをしはじめた。ような気がする。

アスター「…とにかく、オレはあいつら放っとけないから。女だとかは置いとくとしても、教団から追い出されて以来味方が少ないんだよ。協力者が居なけりゃ研究どころか生活してくのもギリギリだ。他にオレを拾ってくれそうなアテもないし、選択の余地はない」

そう言って、アスターは出発の荷造りを始めた。

骨の斥候「警告はしたぞ。お前が決めて自分でやるというのなら邪魔はしない。だが、生きて帰れよ」

アスター「…ああ」

薬瓶をカバンに詰めながら彼の方を見ると、もう関心がないかのように新聞を広げていた。向きが逆さまだ。
心配してんなら付いてくればいいのに。
それを口に出さないまま、アスターは彼を置いて仕事にやってきたのだ。





洞窟内に作られた螺旋階段の塔。その頂上に、仲間たちが台座を作り、魔法陣を書き終えていた。
その魔法陣の上に、ようやく彼の背中の死体を下ろす。

「お疲れさまー。いや、助かったよ。思ったよりも早く始められそう」

アスター「ならよかった。ふぅ…」

一息ついて、改めて辺りを見渡す。
結構広い洞窟だ。天井に穴が空いているから、息苦しさは感じない。そこから外の光も入ってきている。

アスター(…あそこから中の様子が外にバレるんじゃないか? いや、そこまで派手なことはない、と思いたい…)

女性陣は全くそんなこと気にせず、ピクニックにでも来たような顔をして楽しそうに準備をしている。
アスターは若干不安になってきた。本当にこのおば… お姉さま達にポテマが扱えるのだろうか。
その顔色を読んだのか、最年少の彼女が声をかけてきた。

「上手く行くか不安? 大丈夫よ。必要な魔力は全部台座に仕込まれた魂石でまかなえるようになってるから。あたしらがやるべきことは召喚と魂縛の呪文をみんなで詠唱するだけ。後は儀式師が女王の魂を誘導してあの身体に収めて、ハイ終わり」


12-1-17


アスター「…なるほどな。で、オレもやる? 手順は一通り覚えてるぜ」

儀式師の女性はアスターと同じく、虫の教団からの離脱組だ。マニマルコ由来の兜を譲り受けているくらいで、頼りがいがある。
他の術者は力を貸すだけだからそんなに難しくはない。特に練習していないが、アスターには問題なかった。
だが彼女は首を横に振った。

「ううん、儀式の人手は足りてるから大丈夫。邪魔が入らないかどうかの方が心配かな。よければ洞窟内を散歩しながらでもいいから警備のスケルトン達の様子見て来てくれない? 塔の上に現れるはずだから、この広間の中からならどこでも見れるわよ」

彼女にも微妙にスケルトン好き疑惑を持たれているのは判る。が、めげない。

アスター「…結構派手だったりする?」

「大暴れはできないはずだけど、抵抗されたらそれなりに時間はかかるかも。まぁ心配ないわ。誘導係は交代要員がそばに控えてるから、何かあっても代われるし」

アスター(意外としっかり考えてあるな)

少し彼女達を見くびっていたかもしれない。
まだ不安はあるが、後は任せたほうがよさそうだ。

アスター「そっか。じゃ、オレはそのへんブラブラしてるぜ。何かあったら呼んでくれ」

「はーい」

螺旋階段を降りていく。
しばらくして、彼女達の詠唱が遠く聞こえてきた。

「狼の女王よ… 我らが声に応え、目覚めたまえ。ポテマよ来たれ…」

適当に見回りをしながら、護衛の死者達とすれ違う。
来る途中は重いモノを運ぶことに気を取られていてそれどころじゃなかったのだが、結構この洞窟は景観的にいい感じかもしれない。

アスター(今の隠れ家も悪くないっちゃ悪くないんだけどな。ただ、山火事のせいで周囲の見晴らしが良くなりすぎたから隠れるには少々不都合になってきてるし… あと、狭い。何より水場がない)

そろそろ自分も次の住処を探すべきかもしれない、と考えながら、アスターは塔の上を見上げて…
そのまま固まった。


12-1-9


アスター(えー… っと、ちょっと… 派手過ぎない?)

様々な方向から、魂の流れが収束してきている。
ポテマたった一人を封印するために、帝国の魔闘士はこの洞窟全体を使った、ということだろうか。
だが、この洞窟に散らばって封印されている魂の欠片が集まってきているのはおかしい。召喚式にそんな効果はない。

まさか、ポテマが自力で封印を解いて集めているのか!?

アスター(いくらなんでもただの人間の魂とワケが違うだろ、コレ… あの器に収まるのか? いや、そりゃ、下調べして波長が合う娘を使ってるって話だからそのへんはクリアしているのかもしれないけどよ…)

規模が、違いすぎる。
この世ならざる声が、洞窟内に響き渡った。

ポテマ「そうよ! この世界に戻して!」

ぞっとした。

まだ魂の一部しか集まってきていない。
当然、肉体に封じるのもまだだから、死体の娘の喉を使って話しているわけではない。
あの場から動かないから、魂縛の影響だって受けているはず。

だというのに、この声。

アスター(まさか、魂の一部だけで再生を始めてるのか…!? バケモノじゃねーか!)

悪い夢でも見ているようだ。
バラバラにされた魂の欠片だけで復活できるなど、定命の枠を超えている。
虫の教団盟主のマニマルコも不死を得たと言われていたが、このポテマもそういうレベルだったとは。
帝国がポテマの魂のほうを封印する必要があったのも当然だった。


12-1-15


「汝を我らの声によって召喚し、清き者の血が汝を縛る…!」

仲間達が手順を変更して魂縛のタイミングを早めた。詠唱の声音にも焦りがある。
ポテマ自身も召喚ついでに何をされているのか気づいたようだ。

ポテマ「何を! 何をするつもり!? 馬鹿ね! 私を自由にできると思うな!」

ポテマのあざける声が響き渡る。
仲間はまだ気づいていないのか。それとも、気づいていてもどうしようもないのか。

魂縛は魂を決まった魂石に封じるための術だ。放っておけばエセリウスに還ったり、その場に固着して地縛霊になってしまう魂にマーキングして、行き先を変更するもの。それはデイドラとの契約だって無視できるほどに強力なものだ。
しかし、もしこの魂の流れがポテマ自身の力によって引き起こされているとするなら、それは魂縛の高度な応用技術に他ならない。有効範囲はこの洞窟、全部。レベルが桁違いだ。

今あいつは、こちらの魂縛を破るよりも力の回収を優先しているだけなのだ…!!

アスター「ヤバイぞあれ… ど、どうすんだよ…!! 何とか、何とかしないと…」

焦りが口をついて出る。
だが、何ができるというのだろう。



「自分達がどれだけ馬鹿な事をやってるのか、気づいたな?」



聞き慣れた声。
アスターが振り返ると、そこに一人のオトコが立っていた。

警護のスケルトンになにやら挨拶っぽいものをして、脇を通り抜けてこちらにやってくる。
そして、まだ魂の光が渦巻く塔の上を見上げた。


12-1-10


骨の斥候「派手にやらかしたな、これは」

アスター「…すまん」

骨の斥候「そこは『メイン盾きた! これで勝つる』とか言うところじゃないのか」

アスター「…ツッコミ入れてる状況じゃない」

肩を落として、説明する。

アスター「…普通なら、いけるはずだったんだ。塔の頂上にある台座には魂石が仕込まれていて、今もポテマを縛り付けてる。けど、あいつは気にせず自分の再生を優先してる。こっちの魂縛なんていつでも破れるんだよ、あいつには…!」

骨の斥候「だから言ったのだ。やめておけと」

アスター「…ごめん… でも、台座のエネルギーが尽きたら終わりだ。あれが野放しになったら酷い事になる。まだ仲間があそこでポテマを操ろうと頑張ってるけど、オレは無理だと思う。 …マジで、ごめん」

全部言い切って、頭を下げる。
その上から、厳しい声が聞こえてきた。

骨の斥候「…いくら謝ったってやっちまったことはゼロにはならん。覚えておけ」

ビクリ、と肩を震わせる。

骨の斥候「自分の出来ることで事態を収拾しろ。責任を果たせ。 …ほら、頭を上げろ。諦めるのはまだ早い。ここからが大事なところなんだからな」

恐る恐る頭を上げると…
彼は、背中の弓を手に取っていた。


12-1-12


骨の斥候「…だが、問題を解決する手段があるのなら、責任の主体などどうでもよいのだ。力が足りないなら力を持つ友に頼め。誰かに任せるのもまた、責任の取り方の一つだ。私もそうしてきたのだ」

矢をつがえる。

アスター「…お、おい… 何、しようとしてるんだ!?」

まさか。

骨の斥候「不甲斐ない主のケツを拭いてやるんだよ」

彼に持たせているのは、何の変哲もない弓と矢だ。
それなのに。
その先端が、光を帯びて輝きだす。

ポテマが、気づいた。


12-1-11


ポテマ「…ほう、私に牙を剥こうと言うの? その朽ちた身体で」

骨の斥候「貫禄があると言うがいい。なにせ、お前よりも年季が入ってるんでな。骨があるだけでも希少価値だ」

ポテマ「それはご愁傷様。でも私にはもう年など無意味だわ。私の時代はこれからなのだから。 …判らない? この地のノルド達だって騒いでいるのに。私は長い間封じられながら、世界の流れを見ていたわ。だから判る。いずれ私が必要とされる時が来ると知っていたのだもの、当然でしょう?」

ポテマの魂の光が、強く明滅する。


12-1-13


ポテマ「今の皇帝に統治者たる資格はない。戦争に負け、誇りも持たず、サマーセット島のエルフに媚びへつらう俗物。まともに力が及ぶ所はタムリエルの半分にも満たない。ドラゴンボーンの血を引かぬ者など、所詮この程度。 …だから、今こそその時なのよ。皇帝の座を、タムリエルを、セプティムの血族が取り戻す時。このポテマ自身の手で、帝国を蘇らせてやるわ」

ポテマが豪語する。
だが、すでに彼の弓は限界まで引かれていた。


12-1-14


その先端はもう、ポテマの魂に匹敵するほどの光だった。
アンデッドの彼が、煌めく太陽を手にしている。
闇を打ち払うそれが彼自身を灼くことはない。

骨の斥候「とっとと失せろ、亡霊の女王! 貴様の時代は、過去にしかない!!」

彼は、矢を放った。
視界を白が染めていく。
光の塊が、ポテマの居た辺りの空間を飲み込んでいた。

その光を目に焼き付けながら、アスターは意識を失った。





彼の目が覚めたのは、洞窟内の焚き火のそばに敷かれた簡易寝具、ベッドロールの上だった。
酷くダルい。


12-1-6


「あ、目が覚めたみたい。大丈夫?」

若手の彼女が、こちらを見ていた。


12-1-7


アスター「…ああ、 …そっか、無事だったんだな」

「おかげさまでね。他のみんなもボロボロだけど、まだ術が必要な身体にはなってない」

アスター「そっか。で… ポテマは…?」

「消えちゃった。もう、気にしなくていいからまだ寝てな。みんなが助かったのキミのおかげなんだから。魔力切れてすっからかんでしょ? ほら、これ飲んで寝る。あたしらは後片付けしとくから」

彼女は魔力回復の薬を押し付けると、他の仲間を手伝いに向かった。

アスター「…え?」

何で?
自分が何かやっただろうか。
でも、実際マジカはほとんど使い切ってしまっている。
まだ上手く回らない頭を捻っていると、隣から声がした。

骨の斥候「言われた通りにしておけ。 …ああ、この著者はなかなかいい。だが持ち込む先の出版社を間違えたな。注釈が邪魔だ」


12-1-8


振り返ると、いつものようにどこかから拾ってきた本を読んでいる骨がそこにいた。
背表紙に「ザレクの身代金」と書いてある。 …ありふれた安い本だ。

アスターは貰った瓶の蓋を開けて飲み干すと、戦士の正面に顔を持ってきた。

アスター「…なあ。あれ、何したんだよ」

文系のアンデッドは読書の邪魔だと言わんばかりに身体の向きを変える。
気になって仕方がない。

アスター「なあなあ」

骨の斥候「…あれじゃ分からん。聞きたい事があるなら具体的に言え」

アスター「あんたが射った、光の矢だ」

骨の斥候「ああ、そのことか。お前が見たまんまだな」

アスター「あっさりしすぎだ! まるでデイドラのアーティファクトでも使ってるみたいだったじゃねーか。あんな必殺技持ってるなんて知らなかったぞ」

骨の斥候「興奮するな。寝てろと言われただろうが」

半ば無理やりベッドロールに押し込まれる。肉のついていない手で押されると痛い。
横になったまま、アスターが彼の顔にキラキラした目線を送り続けていると、諦めたように話しだした。

骨の斥候「…やじりに細工をしたのだ。私の知っている技術でな。軍でも矢弾の調達を担うことはある。特殊な矢が必要になる時、いちいち工場に発注するよりも現地で既成品を加工したほうが早い場面は多い」

アスター「毒矢とかそういうレベルじゃねーぞ、あれ」

骨の斥候「もちろん違う。平たく言えば魔導具の矢だ、使い捨てのな。私は魔術師ではないが、簡単な魔導具を扱う程度のマジカ操作はできる。まあ、私の種族ではそれが当たり前だった」

アスター「え、マジで、魔導具作ったってこと?」

魔術師でもないのに、そんなモノを作ってしまうとか別次元だ。

骨の斥候「それは… まあ、だって私は、ドゥーマーだからな。これも失われた技術ということになる」

アスター「…そう、いうことか」

合点がいった。
機械にも魔術にも長け、高度な文明を発展させ、このスカイリムの東の山脈を中心に巨大な地下都市を築いたエルフの一種族。
第一紀にその民のほとんどが大地から消え去った種族。

彼は普段自分自身のことは話そうとしなかったから、初めて知った。
彼らの生き残りだとすれば、それくらいできてもおかしくはない。
いや、骨があっただけで生き残ってはいなかったのだが。

骨の斥候「しかし、こうしてお前のおかげで言葉を取り戻せた。 …そうだな。せっかく得た機会だ。ドゥーマーはもう蘇りはしないだろうが、他の種族に使われるのでも構わん。私の知っている技術だけでも残せないか、考えてみよう。生きる目的が見つかった」

だから生きてないって。

アスター「ん、待てよ…」

ふと気づく。
魔導具とは言っても、あれだけの破壊力を持つ光を生み出す魔力の源に使える魂石などその辺に転がってはいないし、仮に手に入ったとしても鏃に使えるほど小さくもない。とすると、彼が作ったのは魔法の巻物に近いもののはずだ。鏃にそれを刻むなんて技術は驚嘆すべきものだが、使用者のマジカを消費しないと発動できないのは一緒だろう。
弓兵の彼はあれほどのマジカを持っていない。そのコストを肩代わりしたのは… 使役の主であるアスターだ。
つまり。


12-1-16


アスター「オレが魔力使い切ったのあんたのせいじゃねーか! 一発撃ってオレが昏倒するようなもん作るな!」

骨の斥候「落ち着け、ちゃんと加減はしたんだ。死なない程度に」

アスター「もっと手心加えてくれませんかねえ!?」

骨の斥候「あれで何とかポテマヨ退散できたんだから、贅沢を言うな。さっきの娘にだってお前のおかげだと言っておいてやったんだ。魔力の負担した分は報われてると思うぞ」

アスター「ポテマだってば。死霊術師の女は止めとけって言ってなかったか?」

骨の斥候「一般論だ。 …ほら、休め。片付けが済み次第出発だからな。山の上にあれだけ派手な光が漏れていたのだし、衛兵が来ないとも限らん。長居は無用だ」

アスター「うう、判ったよ…」

ベッドロールに戻って、目をつぶる。前向きに考えよう。
仕事は失敗だったわけだが、今度も死んで操られる側には回ってない。味方も失ってない。
そう考えると、まだ自分はマシな方なのかもしれない、と。





それからしばらくして、洞窟から変な光が漏れ出ていると恐れたドラゴンブリッジの村の住人の報告が、ソリチュードのブルーパレスに届いていた。

強烈な白い光と共に、ホタルのように光る何かが飛び出してどこかに飛び去った。彼はそう言って身震いしたという。
執政は冒険者に依頼をして調査させたのだが、結局何ひとつ異常は見つからなかった。