秘密結社ゼディス

ゲーム「The Elder Scrolls V : Skyrim」の世界を土台にして創作した、
独自設定の創作小話を連載しています。
多量のMod導入環境が舞台のため、
ロアフレンドリーではないことをご承知の上で御覧ください。

Episode12-狼も歩けば骨に当たる 05

外から見ると、テルヴァンニのキノコの塔は威圧感がある。
機能性と両立した作られた美を体現することに重きを置いているのが帝国やアルドメリの建築様式だとすれば、これは自然を美とするウッドエルフ、ボズマー達の価値観に近い建築物に見えるだろう。
しかしそれは外見だけ。実態を知れば知るほど、これらには大きな違いがあることがわかる。


12-5-1



このキノコの住居の何が最も優れているのか。それは、建築に際してのコストパフォーマンスだ。
キノコの塔は、最大規模のものでもたった10日で建築できてしまう。それでいて耐久性は一級品だった。
それも、勝手に出来上がる。人手が要らないのだ。魔術によってキノコの株それ自体が住居として使える部屋を自然と作り出すように設計されているから、家の主はただ育成に必要な資源、キノコの栄養素を配置して待っていればいい。

……ただ、そこまでならボズマーの魔法でできる木の家も似たようなものだ。根本的に違うのは、キノコの場合は場所を選ばず、制約なしに建てられてしまうこと。このためにその家の中で出来ることが大きく変わってくる。
このキノコは魔術的な設備を導入するのに親和性が高い。上下水道に入浴設備、キッチン、空調、ガーディアンを配置する防犯設備、ガーデニングの可能な庭に至るまで、なんでも組み込める。
大木のうろのような家に住まうボズマー達のほとんどはグリーンパクトという森との契約に縛られるため、容易に安全な住居を増やせず、家主自らその家を傷つけることも許されない。作る地域も限定されている。しかしダンマーにはその制限がないので改築も容易である。デイドラ由来の魔術でもドゥエマーの機械でも好きに導入できていた。
つまり、住める家になるまでに必要な資源の物量や人的コストは圧倒的に低いのに、どこでも建てられて機能面でも充実している、それこそがこのキノコの住居の利点だった。
これがあるから、噴火で被災してもテルヴァンニ家の者たちはすぐに体制を立て直すことができたのだ。

しかし、裏を返せばそれは……管理がずさんな土地ならば所有者に無許可で勝手に建ててしまっても通常通り完成し、簡単に取り壊せないということだ。
菌類であるから成長速度は本当に早い。不意打ちで植え付けられてしまったら、騒いでいる内に出来上がってしまう。強引に家を建ててしまいたい者にとってこれほど便利な代物はない。これが広く出回ったりしようものなら、そこら中がキノコだらけで大変なことになる。
だからこそテルヴァンニ家では高位のウィザードが許可せねば建てられないように、キノコの株は厳しく管理されていた。仮に盗まれたとしても悪用されないよう、正しい手順を踏まねば発育しないように封印が施されているのだ。

……このイリナルタ湖のような事態が起きないように。





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Episode12-狼も歩けば骨に当たる 04

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むかしむかし、このタムリエルの大地で、一番帝国が強かったころのお話。

皇帝の孫として生まれた子供達の中に、ポテマという名の姫がいました。
赤ん坊のときからやんちゃな他の兄弟たちとは違い、生まれたときから大人しく賢い、しかし内気なお姫様でした。
冷酷、残忍、逆らう者には容赦しない狼の女王。
彼女は後にそう呼ばれることになるのですが、それはさておき……


その顔立ちから美人になるであろうと思われ、また皇帝の孫娘でもある彼女には、まだ成人していないにも関わらず、既に求婚してくる大人の男達が大勢いました。
しかし、彼らがポテマを見る目つきは、ポテマのふしだらな兄が女達を品定めしているときと同じもの。それがポテマにとっては気持ち悪くてたまりませんでした。
彼らの中から自身の伴侶を選ぶなんてありえない。もっと、理想的な王子様がどこかに居るはず。
ポテマの目には求婚してくる彼らのことが、とても愚かな獣のように見えていたのです。


しかし、彼女が一生恋などしなかったのか、と言うと……そんな事はありませんでした。


彼女の好みには年齢制限がありました。
最初に求婚してきた男性は全て、ポテマにとっては年齢が行き過ぎていたのです。彼女の目は、まだあどけなさを残す少年たちにしか向けられていませんでした。

それが、彼女の不幸の始まりだったのです。





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Episode12-狼も歩けば骨に当たる 03

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家が、燃えている。

もうとっくに日が落ちて暗くなっているのに、ブルーマの街には緊迫した空気が漂っていた。
そして、焦げ臭い匂いが満ちていた。

だが、その家の両脇には屋根近くまで雪が積み上げてある。他の家屋に燃え移らないようにするための処置だ。
火事ではない。これは、意図的に燃やされているのだ。

薪を集めてきた街の人々が、燃える家の脇にそれを放り投げる。
そしてそのまま、ローブ姿の者達の元に集まる。
彼らは一様に怯えきった顔をしながら尋ねていた。

「あれで足りますでしょうか?」
「我々は大丈夫でしょうね?」
「感染はあの家だけなのですよね?」


そして、口を揃えてこう言うのだ。

「どうか、吸血鬼から我々をお守りください」

ローブの彼らは、ステンダールの番人だ。
吸血鬼が街に住んでいる。その数を増やそうとしている。
そう主張する番人たちはその住処を『特定』すると、その家に火をつけられるように領主に許可を取ってきたのだ。
ロクに中も確認しないまま、家ごと焼き滅ぼすために指示を出す番人達。

「薪をくべたらすぐに離れろ! 燃やせるモノがなくなったら早く避難するのだ! 奴らに近寄らなければ感染はしない!」

鬼気迫る表情で、ただそう繰り返すだけ。その迫力に街の皆は怯えきっていた。
恐怖に駆られながらも燃える家から目を離せない市民達の後ろ。

「早く、こっちへ!」

声を落とし、人目を避けるようにしながら通り過ぎる2つの影。

「ハァ、ハァ……ま、待ってよ姉さん」

「急がないと。見つかるわけにはいかないでしょ」

アスターは自分の姉、ユリアに手を引かれて、街から逃げ出すところだった。
燃えているのは自分の家だ。
そう、吸血鬼だと疑われたのは、他でもない……自分の家族。





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